Starfield 航星日誌

スターフィールドのプレイ日誌です。ネタばれあり。あしからず。

シドニア - ソル星系 火星 Part. 4

航星日誌 23307.9

リクリエーションを兼ねた徒歩による火星地表探査は、スペーサーとの遭遇戦という不幸な結果に終わった。しかし、地表探査のノウハウは今後のミッションに役立つだろう。探査を続行する。

 

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シドニア周辺には、廃墟となった鉱山以外にもいくつかセンサーに反応のあるポイントがある。この星を離脱する前に惑星探査の経験をもう少し積んでおこうと思い、鉱山から別のポイントへと向かった。

 

 

そこは打ち捨てられた宇宙機の発射点だった。こういう垂直型の施設は初めてだ。ローンチタワーに組まれている機体も、化学ロケットのような大きな反動推進エンジンがついているように見える。古いものなのだろうか? しかし、ガラスが割れ気密の破られた管制施設に人はおらず、宇宙機の中にも入ることはできなかった。なんだつまらん。

 

ローンチパッドから周囲を見渡してみると、地平線の近くにセンサーには反応しない四角い影がある。あれは人工物なのか、それとも例によって岩がたまたまそう見えているだけなのか……、好奇心が抑えられず、更に遠征をすることにした。私は探検家なのだ。

 

 

近づいてみると、四角い物体は何かしらの科学拠点のサイロだった。いったい誰がこんなところに……? 螺旋形の風力発電ロッドの建つ施設の方に向かっていくと、突然構内からロボットが現れ、なにか警告を発し始めた。「施設内への侵入と作業への関与を試みる者は、すべて抹殺します」いきなり抹殺かよ。

 

即、実弾射撃が始まった。どうも警備範囲を知らずに踏み越えてしまったらしい。相手がロボットなら人間じゃないんだ。やってやる!

 

勇んでロボットと対峙したものの、良く見る弁当箱に手足のついたタイプAロボットだけでなく、タイプSと呼ばれる首無しゴリラのような機体に兵装ベイを付けた凶悪なものも1機出てきた。さすがに怖い。逃げ回りつつ基地の与圧区画に入ったところ、中にもロボットが。びっくりハウスかここは。

 

長いアームを振り回すロボットに強化拳銃の弾を全弾を打ち込み、なんとか機能停止させることができた。部屋のコンソールを確認すると、ロボット制御に関する画面が出る。無効化の画面を出すと、どうやら外のロボットは止まったようだ……。いや、外にいる狂人モーガンが一人で全滅させたのだろうか? そういえば雄叫びが無線で聞こえていたな……。彼女の功績かもしれない。

 

 

まあともかく、ロボットたちはさほど手間なく無力化することができたわけだ。どこの誰が所有しているロボットか知らないが、破損の責任は明確な境界線を示さなかった使用者にある。こんなところにこんな知的判断能力の弱いロボットを徘徊させてるほうが悪いのだ。そう自分に言い聞かせながらセンサーを入れると、部屋の中に人間の死体が転がっていた。き、気づかなかった……。

 

入植者とおぼしき気密服を着たその死体は、あまりにナチュラルに部屋に溶け込んでいた。ここで死体になって、かなり時間が経っているのではないだろうか? はたして彼はこの施設の管理者でロボットを使役する立場にあったのか、あるいは、私と同じようにロボットを止めるために侵入を試みた外部の人間だったのか……。疑問に答えられる有機知性体も無機知性体も、もはやここにはいない。

 

今回の遠征ではこの拠点のほかにも、鉱物資源の豊富な洞窟や隕石群の落下場所を新たに発見した。なるほど、惑星表面には近づかなければセンサーにも反応しない人工物や天然資源が、かなり豊富にあるようだ。

 

 

惑星探査の感覚はおおむね得られたと思う。いよいよ、本来のミッションであるアーティファクト探しに戻る。問題の人物はUCヴァンガードに属し、金星軌道のパトロールを行っているという。宇宙に上がろう。

シドニア - ソル星系 火星 Part. 3

航星日誌 23307.6

火星植民地の実情は暗澹たるものだった。残念ながら我々に現状を打破するちからは無い。

 

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ピクニックに出よう! そんな気分なのだ。シドニアのハブに潜って人々の話を聞いていると、気が滅入って仕方がない。ハブの酒場で陰気な顔のバーテンダーと会い、交渉してアーティファクトに絡む人物が金星軌道の船にいるということを聞き出したが、その交渉だって楽しいものではなかった(モーガンは妙にほめていたが)。

 

息が詰まって仕方がない。どうせ詰まるらせるなら、シドニア人のため息でできたハブの空気ではなく、気密服の中でリサイクルされた空気のほうがまだましだ。火星の数少ない観光は外歩きだと、通りすがりの誰かも言っていた。携行食もいくつか手に入れてある。20世紀の人類が夢見てたどり着けなかったという火星の大地を、この足で踏みしめてやるのも悪くない。

 

ハブを出て宇宙船に戻らず、そのまま基地のはずれから荒野に出た。

 

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ピクニック、といっても、徒歩で行けるところに何か風光明媚な地形があるわけではなさそうだ。例の火星の顔も衛星軌道上から原始的なカメラで撮影したメサ地形がそう見えただけで、こうやって歩いていてもどれがそうなのか、判別できるわけもない。

 

特に見るべきこともないか……と周囲のスキャンをしていると、ふと気づいた。このエリアにはビーコンを置けるらしい。ビーコンとはなんだろうと思いつつ設置してみると、ちょっと思いがけないぐらい巨大な塔が建った。

 

 

どうもこのビーコンを置くと、周辺に自分の拠点を建設できるらしい。手持ちのアイテムを探ってみると、資源抽出装置ぐらいは置けそうだとわかった。確かにスキャンすると、周囲は鉛鉱石の含有量が多いらしい。

 

いきなりこんなところで鉛の採掘を始めてどうするんだという気もしたが、そういえば宇宙港の端末で、シドニアにニッケルとカルボン酸を供給してほしいというミッションリクエストがあったことを思い出した。ひょっとしたら今後訪れる港で、鉛を欲しがっているところがあるかもしれない。ものは試しだ。拠点を建ててみよう。

 

 

抽出装置をひとつ建ててもうんともすんとも言わなかったが、別カテゴリーに太陽光ベースの発電機があるのを見つけて、こいつを2つばかり置いてみると装置は動き出した。しかし抽出された資源はどこに保管されるのだろう? それっぽい装置はインベントリーにないが……。

 

よくわからないが、しばらくしてまた来てみよう。その時に鉛の山ができていれば成功だ。できていなければ、何かが足りないのだろう。あらためて基地をスキャンしていると、今度は遠方に反応が出た。どうも丘の向こうに何かがあるらしい。

 

そういえば、システム標準のマップ(これがまた見にくい!)でも、宇宙港と中央ハブ以外にいくつかの不明のポイントが示されていた。どうやらその一つのようだ。けっこう遠いので船か地上車で行きたいところだが、そういうオプションは提示されていない。あのターレットみたいなロボット、ヴァスコも乗用には使えないだろう(そんなことしたら凄まじい悪態をついてきそうだ)。えっちらおっちら、歩いていくことにした。

 

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てくてくと丘を登っているうちに、システムがアラートを出しはじめた。放射線警報らしい。酸素が足りず息が詰まる前に放射線にやられてしまうわけか。実際のところこの警報がどのレベルで危険なのかわからないし、問題を緩和しようにも宇宙船に戻るには離れすぎてしまった。それよりも、目的である謎の施設に入ったほうが早いだろう。

 

丘を越えると、施設の外観が見えてきた。廃棄された鉱山施設と表示される。ラッキーだ。ここなら空気もあるだろうし、ひょっとしたら鉱物資源が残されているかもしれない! 

 

 

喜び勇んで丘を駆け下り、施設のなかに飛び込むと、いきなり撃たれた!

 

即座にだ。何の警告も、兆候すらなく、建物の入り口から中に入った瞬間に撃たれた。幸い軽いダメージで済んだが、間髪を置かずマシンガンの弾丸が雨あられと降り注ぐ。ムチャクチャだ。しゃがんで中の様子をうかがうと、センサーに「スペーサー」と表示される何人かの人影が見える。

 

いったいどうすればいいのだ。やめさせようにも、火星の薄い大気では声のかけようもない……と思っていると、後ろにいたサラ・モーガンが奇声を上げて、小銃を撃ちながら突撃していった。こいつ、キレやすいタイプだったのか……。

 

紅の艦隊とやりあったときのヴァスコと同じだ。コンステレーションのファーストコンタクト・プロトコルでは、やられたらやり返すが標準らしい。なんなんだエリートぶりやがって。戦略的撤退という言葉を知らない戦闘狂じゃないか。しかたなくまた後について、モーガンが撃ち漏らした敵をマシンガンで排除することにした。

 

しかし相手のスペーサー、倒しても倒してもわらわら奥からやってくる。弾丸もどんどんなくなるので、できたての死体を漁って弾を補給する。しまいにはそれも尽きて、先の戦闘で手に入れていたレーザーライフルに切り替えた。持っててよかった光学兵器。

 

結局、また10人近く殺してしまった。いや、殺した数だけでいえばモーガンの方が上だ。私はモーガンに連れられて仕方なく自衛のために殺しただけだ。法廷にかけられればモーガンのほうが重罪だろう。もう知らんぞどうなっても。

 

 

最悪だったのは、鉱山の底まで降りても、なんの鉱物資源も残っていなかったことだ。結局得られたのは、死体漁りで出てきた武器だけか……。

 

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しかしスペーサーとは何だったのだろうか。かつてのSF小説では、スペーサーとは銀河世界に適応するため自らに遺伝子改良をほどこし、別種へと進化していった人類のことだった。しかしこの世界では違うらしい。姿かたちは人間そのものだが、一方で高潔な精神性は一切感じられなかった。攻撃的な集団といっても、以前の「紅の艦隊」には一応なりとも統率が取れており、リーダーとの対話も可能だった。しかしスペーサーにはリーダーらしき人間もおらず、対話の機会もなかった。出会えば反射的に銃を乱射してくるような、集合的な知性を感じられない集団だった。

 

おそらく、この銀河にはどの社会にも所属することができず、捨て鉢になって暴力だけを頼りに生きている人々がいるのではないだろうか。彼らは、今回の遺棄された基地のような、組織に属する人間がいなくなった”隙間”にするりと入り込み、そこを根城に生活しているのだ。まさにスペーサーだ。

 

これも、地球壊滅以降のディアスポラが産んだ悲惨な歴史の一部なのかもしれない。断絶された星間社会のなかで、うまく立ち回れなかった弱い人間は、こういう生き方を選ぶしかなかったのだ。社会の外側に固定化されてしまった、社会未満のなにか。それがスペーサーだろう。

 

宇宙探査を続ける以上、これからもスペーサーに遭遇し、そのたびに戦闘になるのだろう。私は彼らを殺し続けることになる。それは避けられない。彼らを殺してでも為すべき大きな善が、何かあるのだろうか? いや、そういった考え方じたい、欺瞞だろう。私はただ、状況に立ち向かうしかないのだ。

シドニア - ソル星系 火星 Part. 2

航星日誌 23307.5

軍の拘束を解かれた我々は、火星、シドニアで改めてアーティファクトを持つ人物の調査を進めることになった。しかし性急な調査は却って危険だ。まずは植民地の状況を把握する必要がある。

 

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シドニアは火星の北半球にある、アシダリア平原とアラビア台地に挟まれた狭いエリアの名称だ。高低差のある地形は、宇宙時代初期から観測の対象となってきた。人類最初の惑星植民地に選ばれたのも、それ故だろう。智慧の神アテナの別名であるシドニアの名は、戦神マルス(アレス)の星にあって、人類の文明を代表する土地にふさわしい。

 

しかし、だ。実際訪れてみると、シドニアコロニーは荒みきった土地だった。ニューアトランティスの後では、これを都市と言うのもおこがましい。あしざまに言えば、タコ部屋付きの鉱山だ。これが300年近くの歴史を誇る植民地なのか……。

 

そもそも、火星はいまだ大気も土壌もテラフォームされておらず、ドームすらない。沖付けされた航宙船からは、気密服をつけなければ都市に入れない。中央ハブと呼ばれる居住区は、どこもかしこも暗く、狭く、赤土で薄汚れ、定期的に地下鉱山の粉塵爆発の音が聞こえてくる。ひどい環境だ。

 

そんな世界だから、人々はみなうつむきがちで、楽し気な会話は何一つ聞こえてこない。ただただ、生きるために採掘の仕事をしている。そしてここには緑がない。人間以外の生き物がいない。ここに生きる人は、与圧服のバイザー越しにしか赤い空を見ることができず、メディアディスプレイの中でしか緑の自然を知らないのだ。

 

彼らはほんとうにここで生まれ、子を産み、死んでいくのだろうか? ちょっと洒落にならないぐらい陰鬱だ。

 

 

ここの提督だというハーストという男にも会ったが、まあ見事なまでのクソ野郎だった。UCの中央政府から派遣されてきたのか、それとも造船会社から派遣されてきたのかは知らないが、ちょっとした会話にも贈賄を要求するような輩だ。まともに情報を聞き出す気にもなれなかった。

 

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居住区から鉱山に向かう途中、ひとりの子供と出会った。粉塵爆発の轟音が響く通路で所在なく立っていたその子、レネーは、いっしょに遊ぶ同い年の子供もおらず、この陰鬱な都市での生活を、空想で埋めて過ごしていた。彼女はメディアで観たカエルに着想を得て生み出した、スペース・フロッグというキャラクターの絵を何枚も描いていた。

 

 

スペース・フロッグには、大人たちを元気にするちからがある。彼女はそう信じていた。うつむき疲れ切った大人だらけのこの世界で、彼女は子供なりに、幸せになる方法を模索していた。大人が笑顔になることが、自分の幸せなのだ。この乾ききった惑星では、子供が子供らしくあることすら難しい。

 

私は彼女に頼まれ、スペース・フロッグの絵を中央ハブの様々なところに貼ることにした。行政局からは落書きにあたる行為とみなされるのかもしれないが、構うものか。私もスペース・フロッグの力を信じたくなったのだ。この沈み切った街を、少しでも明るくしてくれるのであれば。

 

 

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イラストを貼る場所を探してハブの階段を降りていくと、鉱床エリアに出た。剝き出しになった赤い岩石の上で、無数のロボットと、レーザーカッターを持った生身の人間が、鉄鉱石を掘り出している。ここで現場監督をしていると思しきトレバー・ペティヤールという男と話しをすると、火星が現在ような状況になった理由が薄々わかってきた。

 

 

そもそも超光速航法グラヴ・ジャンプが発明され、他の恒星系への移民の緒が開かれたのは、この火星の地においてだという。その最初の航宙船も、火星の造船所で作られた。アルファ・ケンタウリを筆頭に、人類がアクセスできる恒星、そして移住可能な惑星の数は、大きく広がった。

 

しかし、その直後に地球が壊滅し、全人類が宇宙に拡散せざるを得ない状況が生まれた。そこで人類は、火星を第二の故郷としてテラフォームすることを諦め、あまたの恒星系に存在する移住好適惑星に播種するための資源として、使い切ることを選んだのだ。

 

現在のコロニー連合の政治体制に見て取れる通り、恒星間宇宙の探査は、潜在的な脅威に備えるためにどうしても軍事的な性格が強くなる。地球が壊滅し、全人類が他の惑星に移住せざるを得なくなった直後であれば、なおさらだろう。火星の造船所は連邦海軍の航宙艦製造に専念することとなり、移民の完了したいまも、その構造がずっと続いている。

 

現在シドニアの鉱山は、ダイモス・スターヤードという造船企業に支配されている。同社はコロニー連邦海軍の航宙艦製造を一手に引き受ける、なかば公営の企業だ。その強力な官僚機構に支配され、火星の人々は世代を超えて働かされ続けているわけだ。これは一種の経済的奴隷制だ。

 


センターハブの中央には、20世紀の火星観測機が撮影したという有名な「火星の顔」のモニュメントが置かれていた。この顔は、意味の無い図形に意味を見出してしまう心理現象、パレイドリアの例としてよく説明される。

 

最初にこの像を見たときにはひどいアホ面だと思ったが、いま鉱山から戻って見ると、その顔は怒りや嘆きを通り越した、諦めの表情であるように見える。パレイドリアとは不思議なものだ。

 

シドニア - ソル星系 火星 Part. 1

航星日誌 23307.3

私はひとり、コロニー連合の秘密警察に捕えられている。既にアルファ・ケンタウリを離れ、ソル第4惑星、火星の尋問施設に身柄を移された。そこで彼らに、ある取引を持ち掛けられた。

 

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問題はニューアトランティスの貧困地区にある医療ベイの中で起こった。私はヴァンガードの登録センターから出たあと立ち寄った報道機関SSNNでスラム街の代理取材を頼まれ、3人の取材対象のうちのひとり、看護師のオシェーに会っていた。

 

ウェルと呼ばれる貧困地区は、都市の外縁ではなく、その地下にある。文字通りのアンダーグラウンド・シティだ。おそらく惑星ジェミソンの入植が始まった当初、人々は空気や水などのリソースを最小限で済ませられるよう、地表でなく地下に住居を作ったのではないか。その後テラフォーミングが進み、充分かつ快適な空気、水、土壌が整うと、人々は旧街区に蓋をするように、いまのニューアトランティスを作った。地下施設はそのまま空気や水を作る都市インフラとして残り、同時に市民権を得られない人々の吹き溜りとなった……さしずめそんなところだろう。惑星表面の土地はすでに市民権所有者に割譲されているのか、あるいは都市の外ではまだテラフォームが完全ではないのか、ともかく持たざる人々は、この地下街に押し込められている。

 

地下街に呼吸可能な空気と水はあっても、恒星光は届かない。また、地表の都市環境を維持するための様々な機械が動いている中で生活することになる。航宙船の中で生活するのとさして変わらない、劣悪な環境だ。ここで医療を行うこと自体、高潔な行為と言える。インタビューを終え、オシェーからはウェルの子供に広がる感染症の治療に関わる調査を頼まれてしまった。さすがにこれを断るほど、人間は小さくない。

 

彼女から頼まれたミッションに頭を巡らせながら、診療所の中を見回していると、ふとテーブルの上に置かれた医療キットが目に入った。航宙船の中や研究施設の壁など、どこにでもある標準的なものだ。何の気なしに手を伸ばし、中の薬をいただいた次の瞬間だった。後ろからドカドカと足音が聞こえ、振り向くとUCSECと書かれた暴動鎮圧スーツにアサルトライフルを装備した男たちに包囲されていた。コロニー連合警備保安局(United Colonies Security and Safety division)、通称UC警備隊だ。

 

 

ミランダ警告があったかすら覚えていない。私は即逮捕され、そして気が付くと火星の監獄で、尋問室の椅子に括り付けられていた。

 

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なんなんだこれは! 私は何も悪いことはしていない! いや、確かにテクニカルには窃盗を働いた。それは認めよう。しかし以前海賊と戦闘になったとき回復パックが大量に必要となったので、以来医療キットを目にしたら手を伸ばすのが習慣になっていたからだ。パックを取得するとき、「取る」ではなく「盗む」と表示されたのも覚えているが、一瞬のことだ。勝手に手が動いただけで、窃盗の意図は持っていない!

 

だいたい私はドクターの頼み事を聞いてやったのだ。対価として薬品のひとつぐらい貰ってもいいはずだ。それにウェルを見ればわかる通り、UCは市民権を与えていない人間には福祉も提供していない。自助努力で生き抜くことを推奨しているのなら、これくらいの窃盗だってむしろ推奨されるべきだ。そもそもを言えば、地球時代から物語のヒーローが民家を物色してモノを盗るのは当たり前の行為として容認されてきた。私はアーティファクトに選ばれた存在なのだから、その資格はあるはずだ。それにしてもこんなちんけな窃盗で容疑者をほかの恒星系に移送するなんて、コスト意識はどうなっているのだ。それこそ納税者への背信行為ではないか。私以外の全ての軽犯罪者も逮捕して移送しているのだろうな? 選択的な逮捕や収監は公正性を著しく欠く不当行為だ!

 

無罪の理由を42通りほど考えていると、観察窓の向こうに、看守たちのボスと思しきスキンヘッドの男が現れた。ここはどうやらUCSECの拘置所ではないらしい。コロニー連合海軍隷下の特務組織、星系防衛局(UC System Defense, 略称SysDef)の秘密基地のようだ。その男は司令官のイカンデと名乗った。屈強な体格に、にこやかに作り上げた表情。警戒心が増す。

 

 

イカンデは単刀直入と言いつつダラダラと弁を垂れたが、要はこういうことだった。「ここで収監され罰金を払うか、それとも私の指揮下に入り、紅の艦隊の潜入捜査を行うか」

 

なるほど、防衛システムとも言われるSysDefは、UCの植民世界を襲うテロリスト、紅の艦隊からUC市民を守るのが仕事だ。彼らが秘密裏に紅の艦隊壊滅作戦を遂行するにあたり、どうやら私は、かなり前からスパイ候補としてマークされていたらしい。どの組織にも明確に属しておらず、紅の艦隊との交戦・交渉履歴があったことから、組織への潜入にぴったりだと判断されたのだ。

 

それで奴らはUCSECと結託し、旧世紀のジェイウォーク(横断歩道以外の場所の道路横断罪での逮捕)や転び公妨(警官への接触を公務執行妨害として逮捕)さながらのやり口で逮捕し、脅迫して手ごまに仕立てようとしたわけだ。イカンデはスパイのハンドラーだ。

 

ふたを開けてみれば、これは薬品の窃盗とはレベルの違う、高次の倫理問題だ。各地で略奪や殺人を繰り返す邪悪な紅の艦隊。奴らからUC市民を護るため、この組織に従うのか、それとも……。

 

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私は断った。収監と罰金のほうがまだマシだ。

 

もちろん、こんな非人道的なやり方でまったく無辜の人間を拉致監禁し、それでいながら正義の名をかたって味方に引き入れようというイカンデの魂胆が気に食わないというのもある。だが、もっと根本的なところで、あの人たちとはこれ以上戦いたくないな、と思ってしまったのだ。

 

確かに、奴らは採掘チームに襲い掛かってきた。そして、私も身を守るために彼らを何名も殺した。しかしその後の交渉で、彼らにも一定のルール、そして社会……おそらくは仲間、家族といったものがあることが見えてしまった。

 

いちどそういう交流を持ってしまった相手を、皆殺しにするためにスパイをするなんて、単純にはできないぞ、と思ったのだ。

 

わかっている。ヒューマニズムに基づく判断は、いつだって独善的で、刹那的だ。いまSysDefに参画しないことで、今後も紅の艦隊に殺されたり、家族を失う被害者が出続けることになるのかもしれない。しかし私は、紅の艦隊の連中を、同じ人間だと認めてしまったのだ。踏ん切りはつかない。

 

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イカンデは軽蔑の目線を私にくれた。その目から、私は、この収容所で生涯を暮らすことになるだろうと覚悟した。しかし、そこにモーガン(すっかり忘れていた!)が現れ、釈放のためのカネを支払ったと伝えてきた。

 

 

ふう、どうやら私は再び自由の身らしい。回復パックひとつで人生を棒に振るところだった。釈放金は例のCEOのジジイのカネだろうか? 突然増えた寄付金の理由について、取締役会でネチネチ問われるヤツの顔を思い浮かべると、少し溜飲が下がった。

 

しかしSysDefは、どうやら私を敵認定したらしい。勝手に巻き込んでおきながらはた迷惑な話だ。もう知ったことではない。とにかく外に出よう。モーガンに連れられ、与圧服を着て外に出ると、そこは火星、シドニアの街だった。

 

 

なんと、そもそも旅の目的地であったシドニアに、強制的に来てしまったわけだ。赤い土の地表にでると、宇宙行には自分の船もあった。モーガンが乗ってきてくれたのだろう。何はともあれ、これで冒険が続けられる!

 

 

ニューアトランティス - アルファ・ケンタウリ A星系 ジェミソン Part. 4

航星日誌 23307.1

コンステレーションの一員となった私は、リーダーのサラ・モーガンとともに更なるアーティファクト発見のために出発した。コロニー連合政府MASTの外郭軍事部隊ヴァンガードには、各地の情報が集まっている。モーガンの勧めに従い、調査はここから始める。

 

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MASTとは、コロニー連合(UC)の統治機構であり、政治体制そのものを表す言葉でもある。軍事、行政、科学の三位一体 (Military, Administrative and Scientific Triumvirate) の略称だ。未知の領域を探査するための科学、外敵から防衛するための軍事、植民地を運営するための行政。この3要素はいずれも宇宙のフロンティアにあっては欠くことのできないものだと言える。

 

しかし、すでに無数の惑星が開拓され、コロニー連合が人類圏最大の統治機構として君臨しているいま、はたしてMASTが旧来の民主主義に代わるものとして最適なのか、疑問も残る。ここニューアトランティスの繁栄を見れば、すでにアルファ・ケンタウリ星系がフロンティアと言えるような場所ではないことは明らかだ。地球時代に人々が勝ち取った普遍的な権利である人権を故意に隠蔽し、「市民権とは自ら勝ち取るもの」というスタンスで市民一人ひとりに努力を強いる政治体制は、勝ち取る力のない者にとっては厳しい。弱き者は生きてはいけないというフロンティアスピリッツの負の側面が、この統治機構には組み込まれている。

 

これから向かうヴァンガードは、まさにその歪みを体現している機関のひとつだ。私兵集団であるヴァンガードに籍を置き、UCのために宇宙で危険な任務をこなした者にのみ、UCは市民権を与える。そんな世界に私は身を置いているのだ。

 

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ヴァンガードの登録センターはロッジのすぐ近く、MAST本部の中にある。モーガンを連れた私は少し寄り道をして、植物学者からの依頼で市内各地の樹木調査をこなしたり、貧困地区であるウェルの見学をしたりしてから、登録センターへと向かった。植物学者によると、ニューアトランティスの樹木が奇妙な電磁波を出すようになっているとか。植生が惑星環境に適応できていないのだろうか? 

 

 

都市に秘められた謎を嗅ぎまわりつつ、ヴァンガード登録センターに入ると、トゥアラという軍の管理官がモーガンを出迎えた。彼はモーガンを昔から知っていて、いつも勧誘しているようだ。よそよそしかった彼女の表情がトゥアラの前ではほころび、急にベラベラとしゃべるようになった。ははあ。彼女はこういうタイプなんだな。別にトゥアラと特別な関係があるとかではない。彼女は本質的に人づきあいが苦手で、よく喋る相手にだけ気を許す内向的な性格なのだ。わかる。自分もそうだ。こういうタイプは得てして、自分の性格には問題があるが思考は明晰だと信じている。だから、引っ込み事案な自分の性格を克服したくてリーダーに立候補したりする。……書いていて嫌になってきた。

 

トゥアラの情報で、火星のシドニアにアーティファクトを保有していると思しき人物がいるという。いや、実のところディティールは覚えていないのだが、とにかく太陽系……地球が世界の中心ではなくなっているのだから、ソル星系と呼ぶべきか……の火星に行かねばならないということはわかった。ソルはアルファ・ケンタウリの目と鼻の先だ。

 

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行き先が定まったついでに、軽い気持ちでヴァンガードに入隊をしてみることにした。宇宙を移動する間にヴァンガードのミッションをこなせば、何かと便利かと思ったのだ。トゥアラに改めて入隊方法を訊くと、地下にあるオリエンテーションホールで登録とテストをすればいいという。

 

軽い気持ちで地下に降りると、そこにあったのはUCの戦争博物館だった。

 

 

おそらくヴァンガードの入隊希望者に、彼らの存在意義を浸透させるために展示しているのだろう。22世紀半ばの地球崩壊から、UCの結成と分離主義者「自由恒星同盟」との戦争、宗教集団である「ヴァルーンの家」の起こした叛乱を中心に、その経緯がトピックごとにまとめられている。特にニーラ、ロンデ二オンといった惑星での凄惨な戦いと、禁止された機動兵器メックや生物兵器UCゼノウェポンの存在には目を見張る。展示の最後は、自由恒星同盟との和平のため、過剰な軍事行為を働いた自軍の将軍3名を極刑にした、という殊更後味の悪いトピックでまとめられていた。

 

この一連の展示で改めて、私が生きている銀河人類圏の歴史が俯瞰できた。しかし、私のヴァンガードへの士気は上がるどころかむしろ下がってしまった。軍事を統治体制の3頂点のひとつに置くが故に、UCは戦争をいとわない。軍による虐殺などの逸脱行為は目に余る。UCの統治体制に対する疑念がますます膨らんでしまった。

 

ヴァンガードはUCの中心ではなく、あくまで外縁の部隊だ。武装した民間人の集まりなので、ある種気軽さもある。どこかの企業に登録したり、ましてや海賊に籍を置くよりは、ドライかつ自由に活動ができるのでは……と思ったのだが、どうしても背後のUCの存在が気になってしまう。

 

とりあえずだが、私はコンステレーションのメンバーなのだ。あまり別の組織に肩入れせずに、自分でできる調査を地道にしたほうが却って安全、いや健全ではないのか。そう思って、私は踵を返し地上へと向かった。

ニューアトランティス - アルファ・ケンタウリ A星系 ジェミソン Part. 3

航星日誌 補足

アーティファクトの謎を解明するため、コンステレーションへの加盟を求められている。

 

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コンステレーションのロッジの2階は小部屋に仕切られており、メンバーの私室になっているようだ。妙にドアの広いつくりは、ホテルというより介護老人ホームを思わせる。あてがわれた部屋に入ると、妙に落ち着かないサイズのベッドに枕が2つ置かれていた。誰と寝ろというんだ。

 

まあ、せっかく与えられた寝床だ。使わせてもらおう。下のフロアに正体不明の怪現象があるというのも気に食わないが、目の前で起動してしまった装置だ、今さら逃げても仕方ないだろう。寝ている間に中性子線放射でも始まったならば、そういう人生だ。

 

さて、登場人物を整理しておこう。まずはサラ・モーガン。コンステレーションの現議長だという。もとは軍人だったようだが、ちょっと高圧的というか、ドライなしゃべり方をする。まあ職歴も性格もリーダー然とした人間、ということなのだろうが、どこか空虚さを感じる。宇宙の謎を解く、しかし何のために? 単に自分がリーダーをやりたいから宇宙の謎を解くなどと言っているのではないか? 

 

次に宇宙船会社のCEOのジジイ、ウォルター・ストラウド。コンステレーションの大口スポンサーらしいが、こいつは敵だ。開口一番、人を役立たずの採掘機扱いしてきやがった。誰が穴掘りしかできないド田舎の肉体労働者だ。親はここのコンドミニアムに住んでるんだぞ。加齢による脳機能の衰えと社会的な地位への固執とが合わさって、人当たりが悪くなっているのだろう。哀れな老人だ。こちらは人格者なので相手を余計に刺激しないよう穏当な受け答えをしてやったが、すでに腹の中ではジジイの会社の宇宙船をタダでせしめて経常利益を圧縮させつつ緩やかに奴の社会的信用を奪っていく方法について、可能性を探りつつある。

 

 


そして神学者、マッテオ・カトリ。こいつも捉えどころのない男だ。旧世紀の宣教師マテオ・リッチから取ったと思しきその名は、ふたつの世界の架け橋になるとでも言いたいのだろうか。その発想がすでにいかがわしい。そもそも神学者というが何を信仰しているのかもよくわからないのだ。カトリという姓は北インド・ネパール系なので、ここも西側の一神教とインド多神教の融合的な背景を感じさせる。彼が信仰し研究しているのはユニバーサルな一神教なのか、宇宙万物に神が宿る的な多神教なのか、それとも宇宙時代にありがちな、私は宇宙を信じる、というやつなのか。とっちゃん坊やな風貌からも、信頼ならなさがにじみ出ている。

 

最後に科学者のノエル。彼女はまあいい。なんというか、無害そうだ。それに愛想も良い。話しかけたらアーティファクト以外にもいろいろ研究をしているというので、手伝うことにした。

 

この4人と、あのペテン師じみたバレットがコンステレーションの現メンバーということになる。こいつらの仲間になるべきか……。

 

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少々迷いはしたが、結局、提案を受け容れて仲間になることにした。独りで冒険をすることも、他のファクションに参加することもできようが、こういった組織は何かと使い道がある。やはり冒険者としては、アーティファクトの謎は素直に解いてみたい。ノエルの手助けもしたいし、ジジイの会社が増収減益の最悪サイクルにハマって株主から叩かれるさまも見てみたい。

 

コンステレーション参加の意思をサラに伝えると、彼女はこわばった顔を解き、さっそく次のミッションを伝えてきた。……が、それを聞いて愕然とした。ヒントはないので、とにかくどこかで変なものを掘り当てたという人物を探して聞き込みしよう、というのだ。本気で? この広い銀河空間を……?

 

 

先が思いやられる。とりあえずコロニー連合政府の下部組織、バンガードの中にヒントを聞き出せそうな人物がいるそうなので、サラと行動を共にすることになった。ついでに街をもうひと回りして、できればミッションをこなしてレベルアップしておきたい。なんとかタワーにいる両親にもまだ会っていないし。

ニューアトランティス - アルファ・ケンタウリ A星系 ジェミソン Part. 2

航星日誌 23306.9

巨大都市ニューアトランティスに置かれた秘密結社コンステレーションの本拠地「ロッジ」。そこで私は、今後の運命を決める決断をしなければならない。

 

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金色に装飾されたコンステレーション・ロッジの扉にバレットから渡されたリストウォッチを掲げると、扉は音もなく開いた。なるほど、そのための時計だったかと思うが、こんな仰々しい仕掛けを作る集団に少々引き気味である。

 

ハイパーモダンな建物の外観に反して、ロッジの内部は20世紀初頭の木質を多用した作りになっている。当時のロッジはまさにこのような様式だったのだろう。選ばれた賢人たちが集まる場、というわけだ。恥ずかしげもなく、よくやる。中では4人の男女が討論らしきものをしていた。かしこぶった様子がどんどん鼻についてくる。

 

彼らは、バレットと同じコンステレーションのメンバーだ。冒険家風でリーダー格のサラ、科学者のノエル、航宙船メーカーのCEOで組織の資金供給元である何とかというジジイ、そしてマッテオという神学者の若者。この顔ぶれ、まさにクラシックなSF作品に出てくる冒険の仲間たち、といった趣だ。これまでお供してきたロボット、ヴァスコも、彼らの仲間だ。

 

サラに話しかけると、さっそく持ってきたアーティファクトを部屋の中央の装置に置けと言われた。そこにはすでに2つの同型の遺物が置かれている。手持ちのアーティファクトを置くと、それらは音もなく浮かび上がり、その周囲に何らかのパターンに従って美しい光の粒子が浮び上がった……。

 

 

まず彼らに、安全プロトコルという概念はあるのだろうか? 防爆設備もなにもない可燃物だらけの平土間に研究装置をどっかり据え付け、まったく未知の物質を素手で触って反応させ、引き起こした既存のどんな物理学にも反する現象をほぼゼロ距離で観察している。すごいエネルギーが発生しているそうだが、放射線で瞬時に焼かれる可能性は考えなかったのだろうか? 球状の光体の一粒ひとつぶがマイクロブラックホールである可能性は? 光は粒子と波の性質を兼ね備え、直進性がある。散乱や屈折はしようが、目視できるサイズで球状にまとまる性質などない。何か別のものがそこに突如として生まれ、エネルギーの輻射で発光しているのだ。それをぼんやりと見つめるこいつらは、身の危険というものを一瞬でも考えたことがあるのか?

 

とんだ間抜けどもの集団か、あるいは確信的狂気なのか。この状況に違和感を持たず目を輝かせるだけのコンステレーションに、恐怖すら感じてしまう。アーティファクトの謎を共に解かないかと言われたが、さすがに躊躇する。ベッドは貸すというので一晩考えさせてもらうことにしよう。