Starfield 航星日誌

スターフィールドのプレイ日誌です。ネタばれあり。あしからず。

シドニア - ソル星系 火星 Part. 2

航星日誌 23307.5

軍の拘束を解かれた我々は、火星、シドニアで改めてアーティファクトを持つ人物の調査を進めることになった。しかし性急な調査は却って危険だ。まずは植民地の状況を把握する必要がある。

 

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シドニアは火星の北半球にある、アシダリア平原とアラビア台地に挟まれた狭いエリアの名称だ。高低差のある地形は、宇宙時代初期から観測の対象となってきた。人類最初の惑星植民地に選ばれたのも、それ故だろう。智慧の神アテナの別名であるシドニアの名は、戦神マルス(アレス)の星にあって、人類の文明を代表する土地にふさわしい。

 

しかし、だ。実際訪れてみると、シドニアコロニーは荒みきった土地だった。ニューアトランティスの後では、これを都市と言うのもおこがましい。あしざまに言えば、タコ部屋付きの鉱山だ。これが300年近くの歴史を誇る植民地なのか……。

 

そもそも、火星はいまだ大気も土壌もテラフォームされておらず、ドームすらない。沖付けされた航宙船からは、気密服をつけなければ都市に入れない。中央ハブと呼ばれる居住区は、どこもかしこも暗く、狭く、赤土で薄汚れ、定期的に地下鉱山の粉塵爆発の音が聞こえてくる。ひどい環境だ。

 

そんな世界だから、人々はみなうつむきがちで、楽し気な会話は何一つ聞こえてこない。ただただ、生きるために採掘の仕事をしている。そしてここには緑がない。人間以外の生き物がいない。ここに生きる人は、与圧服のバイザー越しにしか赤い空を見ることができず、メディアディスプレイの中でしか緑の自然を知らないのだ。

 

彼らはほんとうにここで生まれ、子を産み、死んでいくのだろうか? ちょっと洒落にならないぐらい陰鬱だ。

 

 

ここの提督だというハーストという男にも会ったが、まあ見事なまでのクソ野郎だった。UCの中央政府から派遣されてきたのか、それとも造船会社から派遣されてきたのかは知らないが、ちょっとした会話にも贈賄を要求するような輩だ。まともに情報を聞き出す気にもなれなかった。

 

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居住区から鉱山に向かう途中、ひとりの子供と出会った。粉塵爆発の轟音が響く通路で所在なく立っていたその子、レネーは、いっしょに遊ぶ同い年の子供もおらず、この陰鬱な都市での生活を、空想で埋めて過ごしていた。彼女はメディアで観たカエルに着想を得て生み出した、スペース・フロッグというキャラクターの絵を何枚も描いていた。

 

 

スペース・フロッグには、大人たちを元気にするちからがある。彼女はそう信じていた。うつむき疲れ切った大人だらけのこの世界で、彼女は子供なりに、幸せになる方法を模索していた。大人が笑顔になることが、自分の幸せなのだ。この乾ききった惑星では、子供が子供らしくあることすら難しい。

 

私は彼女に頼まれ、スペース・フロッグの絵を中央ハブの様々なところに貼ることにした。行政局からは落書きにあたる行為とみなされるのかもしれないが、構うものか。私もスペース・フロッグの力を信じたくなったのだ。この沈み切った街を、少しでも明るくしてくれるのであれば。

 

 

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イラストを貼る場所を探してハブの階段を降りていくと、鉱床エリアに出た。剝き出しになった赤い岩石の上で、無数のロボットと、レーザーカッターを持った生身の人間が、鉄鉱石を掘り出している。ここで現場監督をしていると思しきトレバー・ペティヤールという男と話しをすると、火星が現在ような状況になった理由が薄々わかってきた。

 

 

そもそも超光速航法グラヴ・ジャンプが発明され、他の恒星系への移民の緒が開かれたのは、この火星の地においてだという。その最初の航宙船も、火星の造船所で作られた。アルファ・ケンタウリを筆頭に、人類がアクセスできる恒星、そして移住可能な惑星の数は、大きく広がった。

 

しかし、その直後に地球が壊滅し、全人類が宇宙に拡散せざるを得ない状況が生まれた。そこで人類は、火星を第二の故郷としてテラフォームすることを諦め、あまたの恒星系に存在する移住好適惑星に播種するための資源として、使い切ることを選んだのだ。

 

現在のコロニー連合の政治体制に見て取れる通り、恒星間宇宙の探査は、潜在的な脅威に備えるためにどうしても軍事的な性格が強くなる。地球が壊滅し、全人類が他の惑星に移住せざるを得なくなった直後であれば、なおさらだろう。火星の造船所は連邦海軍の航宙艦製造に専念することとなり、移民の完了したいまも、その構造がずっと続いている。

 

現在シドニアの鉱山は、ダイモス・スターヤードという造船企業に支配されている。同社はコロニー連邦海軍の航宙艦製造を一手に引き受ける、なかば公営の企業だ。その強力な官僚機構に支配され、火星の人々は世代を超えて働かされ続けているわけだ。これは一種の経済的奴隷制だ。

 


センターハブの中央には、20世紀の火星観測機が撮影したという有名な「火星の顔」のモニュメントが置かれていた。この顔は、意味の無い図形に意味を見出してしまう心理現象、パレイドリアの例としてよく説明される。

 

最初にこの像を見たときにはひどいアホ面だと思ったが、いま鉱山から戻って見ると、その顔は怒りや嘆きを通り越した、諦めの表情であるように見える。パレイドリアとは不思議なものだ。