Starfield 航星日誌

スターフィールドのプレイ日誌です。ネタばれあり。あしからず。

ニューアトランティス - アルファ・ケンタウリA星系 惑星ジェミソン

航星日誌:23308.6

アーティファクトの回収に成功した我々は、ソル星系の探査を切り上げ、アルファ・ケンタウリに帰還した。

 

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グラヴ・ジャンプを使い、アルファ・ケンタウリに戻ってきた。惑星ジェミソン。青い海のある惑星を観るのは久しぶりだ。地球を失った我々人類にとっては、これこそが安らげる故郷ということなのだろう。

 

ニューアトランティスの宇宙港に着陸すると、まっすぐにコンステレーションのロッジに向かった。アーティファクトを持ってることで誰に襲われるかわからない。ロッジのアーティファクト研究デバイスに持ち込んだブツを投入すると、それが当然であったかのようにすっと位置が定まり、既存の物体と重ならない軌道を取って回転しだした。これで3つ目だ。いったいいくつあるのだろうか?

 

 

しかしまあ、コンステレーションの一員としての私の仕事はこれで定まった。銀河じゅうからアーティファクトのかけらを集め、ぼんすかぼんすかデバイスに投入してゆく。要は物集めだ。そうして、いつしか訪れるだろうアーティファクトの変化を見届ける。宝の地図が現れるのかもしれないし、核爆発が起こるのかもしれない。ひょっとしたら新しい宇宙が生まれるのかもしれない。

 

結果が何であれ、やれるところまでやってみよう。探検家だと言って定型なく宇宙をさまようよりは、目的があったほうがいい。

 

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コンステレーションの参加テストともいえる今回のミッションだったが、結果としてサラ・モーガンからはそれなりに評価されたようだ。個人的にプレゼントまで渡された。メンバーとして期待されているようだ。

 

彼女からは次のミッションをいくつか提示された。まず、コンステレーションの軌道天文台『アイ』への訪問。ウラジミールという仲間がいて、異常現象を追っているそうだ。そんな設備があること自体驚きだが、なるほど宇宙の謎を探る組織だ。強力な観測施設はあってしかるべきだろう。

 

ふたつめは、いまだナリオン星系にいるだろうバレットの探索。最初の事件のあと、私の所属していた採掘企業アルゴス・エクストラクターズは衛星ベクテラから撤退を始めたようだが、彼とはいまだ音信普通のようだ。こちらはある意味私が原因になっている問題なわけで、少し気になる。そして3つ目が、自由恒星同盟領域への旅だ。その水先案内人として、サム・コーというコンステレーションメンバーを紹介された。

 

 

「ようこそ、このハチャメチャ一家へ」開口一番これだ。サム・コーとは少し気が合うかもしれない。髭面にカウボーイハットのファッションスタイルは気取りすぎだが。なお、この冒険にサム・コーはコラという妙に老け顔の娘を連れていくようだ。ハチャメチャはお前だ。

 

 

どのミッションに取り組むにしても、サラ・モーガンはノリノリですぐにも出発したがっているようだが、ちょっと待ってほしい。まだ航宙艦を操船しての宇宙探査は初心者なのだ。ソル星系でも死ぬような思いを何度もした。もう少し装備を整えたいし、恒星間航行も、惑星探査も経験を積んでおきたい。

 

そして、もう一つ気になることがある。ずっとタスクに残っていた、「両親の訪問」だ。今回ロッジに父親の書置きまで届いていた。これは、会いに行かねばならないだろうなあ……。

海王星停泊軌道 - ソル星系 海王星

航星日誌:23308.4

モアラを追うため、我々は地球からいったんシドニアに戻った。モアラはトラブル・メーカーだ。相応の準備が必要だ。

 

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地球から火星軌道に戻ると、いきなりUCSecの警備艇に停船させられた。すっかり忘れていたが、月面で傭兵どもから禁制品の骨董だかなんだかをかっぱらっていたのだった。こんなものを発見できるとは大したセンサー能力だが、いったい何に反応したのだろう。地球由来の製品は特殊な電磁波でも出してるんだろうか。ともかく罰金を払い、禁制品は没収だ。

 

しかし不思議だ。禁制品探しで船のストレージを検めたはずなのに、そこに満載された別の荷物に、不信感を抱かなかったのだろうか。アサルトライフル、ハンドガン、ショットガン、レーザーライフル、都合40丁。それに投擲弾と手斧もゴロゴロ。過去3度の戦闘で入手した小火器でストレージはあふれんばかりになっていたはずだが……。

 

いや、こちらとしてもテロリスト用のサンタクロースみたいな船にするつもりはなかったのだが、戦闘に遭うたびに不足する弾丸を少しでも補充しようとすると、どうしても殺した相手から火器を奪うことになる。撃っては漁り、撃っては漁りを繰り返しているうちに、ちょっとした小銃小隊なら数個編成できそうな量がたまってしまった。海王星に直行せずわざわざ火星に立ち寄ったのも、装備の更新というより今ある装備を売り払うためだ。

 

警察署で禁制品の罰金を払うと、トレードオーソリティのオフィスに直行して武器を売れるだけ売り払った。トレードオーソリティは貿易管理局と訳されるが、政府機関ではなく独立した商業組織だ。明確に禁制品でなければ、たとえ拾った銃でも買ってくれる。店の金庫がカラになるほど売り払った。これでずいぶん身軽になった。

 

 

多少温まった懐で何を買うべきか、船の強化パーツは買える額なのだろうか……と思案しながら地下を歩いていると、ひとりの女性と会った。アンドロメダ・ケプラー。科学者だという。船のクルーとして働き口を探している奴らとは時々会っていたが、いままではカネがなくて雇えなかった。しかし今なら相応のカネが出せる。しかもこれから向かう宙域では、また空間戦闘があるだろう。操船スキルを持った人間は役に立ちそうだ。

 

思い付きで、ポンとカネを出して契約してしまった。決め手は名前だ。エチオピアの女王の名に、稀代の天文学者の姓。派手な名前は悪くない。

 

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サラ・モーガン、アンドロメダ・ケプラー、私の3名体制となった船は(あ、ロボットもいるか)、海王星停泊軌道に到達した。惑星のリングのかなり外側だが、岩石がゴロゴロしてる。かなりの密度だ。トラッキングマーカーを正面に捉えると、船体が確認できた。ヴァンガード、モアラ・オテロの船だ。ようやく見つけたぞ……!

 

 

オテロの船は徐々に近づいて来る。向こうもこちらを認識したようだ。サラが何か言って向こうと通信を始めたようだが、石っころをよけるのに集中していてよくわからない。オテロの船は増速しているようで、どんどん近くなってくる……。一瞬、わずかな閃光が見えたかと思うと、衝突音とともにこちらの船が大きく揺れた。船体が回転しだし、シールドのインジケーターが赤くなっている。この衝撃、質量弾による攻撃だ!

 

またかよ! オテロの船が接触ぎりぎりのコースを駆け抜け、後方へと過ぎ去っていく。いきなりの発砲は慣れっこだが、今回は海賊や傭兵に襲われたんじゃない。植民世界の治安を守るヴァンガードの船から攻撃を受けたのだ! ひどいだまし討ちだ。あっという間に見えなくなったオテロの船を補足するため、こちらも小さな岩にガンガンあたりながら180度回頭を試みる。奴め、このままの増速で遷移軌道に移られたら、これまでの苦労が水の泡じゃないか。となりではサラが無線でオテロの船と怒鳴りあっているが、とてもじゃないが聞いている余裕はない。青い惑星が視界の下に沈み、45億km離れた太陽の弱い光が正面に回ってくる。

 

見つけた! オテロの船の影が、白い恒星光の中に浮かび上がった。しかし奴の船も反転機動をかけ、こちらを正面に捉えようとしている。インターセプトコースだ。再び敵の砲門と正対する。やられる前にやらなければ、海王星の冷たいリングの一部になってしまう。迷う間はない。敵船がターゲットサークルの中に入った瞬間、こちらの質量弾、レーザーを同時発射し、更にミサイルで追い打ちをかけた。直撃! 通信でオテロが何かわめいている。「船を乗っ取られた! 助けがいるんだ!」ああそうかい! ……ええ?

 

 

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こちらのミサイルで防御スクリーンが喪失すると、オテロの船の動きは止まった。完全に破壊してしまわなくてよかった……。慎重に速度を合わせて至近距離に船を寄せ、べロウズを伸ばして奴の船とドッキングする。そこそこの大きさの船だ。中に入ると、案の定スペーサーの連中が待ち構えており、白兵戦となった。まあこれは予期していたことだ。閉鎖空間での戦闘はおっかないが、なんとか相手を倒し、船のブリッジまで進むと、へたりこんでいだモアラ・オテロと目が合った。

 

 

放射線焼けした浅黒い肌に黒い髪。背も高い。モアラ・オテロは、見方によってはなかなかの色男だ。しかし今は、疲れ切ったペテン師の顔に見えた。お前に会うためにどれだけ苦労したことか……。話を聞くと、彼は彼で考えがあって、海王星領域にスペーサーをひきつけ一網打尽にしようとしていたらしい。馬鹿な考えだが、星間領域に人生を呑み込まれると、そんな風に思考回路が働いてしまうのかもしれない。

 

ベラベラとしゃべるオテロをモーガンが止める。「パトロール中に不思議なものを見つけたそうね?」そうだった。こちらの目的はアーティファクトだ。そこで気づいた。喋ってるオテロの後ろに浮いてあれ……、アーティファクトじゃない?

 

 

火星、金星、月、海王星と廻った長旅の末、目的のアーティファクトはあっけなく見つかった。オテロは拾ったアーティファクトを宇宙船の装飾に使おうとしていたようだ。装飾ったって、こんなもんどこにつけるんだ。ブリッジの上に立てれば3倍速く加速できるとでも思ったのか。

 

ともかく、コンステレーションの一員として最初のミッションはクリアーだ。ニューアトランティスのロッジに持ち帰えろう。

 

船に戻ると、アンドロメダ・ケプラーはぐうぐう寝ていた。根性の座ったクルーが2人に増えた。

 

 

操舵席から外をみると、太陽系の惑星が一列に並んでいる。ずいぶんと"外"に来たんだな……。人類の故郷を一望しながら。軌道を離れた。

 

 

旧ロンドン - ソル星系 地球

航星日誌:23308.3

旧い伝説に、サマルトリアの王子という一連の挿話がある。その王子を探して街や洞窟を訪れるのだが、そのたび、王子は一足違いで旅立ったあと、という内容だ。今回のヴァンガード探しは、まさにサマルトリアの王子の様相を見せている。

 

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青黒い空を降り、カフェラテ色の大地が近づいてくる。しかしそこに水分はない。乾ききってひび割れた地面が、延々と広がっているだけだった。着陸態勢に入った船が4本の主推進器をすべて地表方向に向ける。その噴射を浴びて、もうもうと埃が立ち上った。

 

我々は、地球に降り立った。

 

 

システムのナビゲーションによれば、ここは旧ロンドンの中心地だ。が、視界にひろがるのは岩と砂ばかりで、人工物は一つも見えない。昼の領域にいるはずだが、天頂はほぼ宇宙の色で、星が見える。地平線は白く霞んで見えるが、これは大気の厚さによるものではなく、舞い上がった地表の埃によるものだろう。

 

月軌道ステーションを出たとき、モーガンはヴァンガード、モアラ・オテロを追うため、海王星に急ぐよう言ってきた。しかし私はその気になれなかった。奴を追う過程で、金星では狂信者相手に命がけの操船を強いられ、月軌道ステーションでは無駄な人殺しを殺してしまった。海王星にすぐに向かったところで、また入れ違いになるかもしれないし、敵に襲われるだけかもしれない。

 

ばかばかしくなって、こうやってまた、寄り道をしてしまったわけだ。しかし、この光景は……。旅の疲れを癒すには、ほど遠かった。

 

気密服を着て、船の外に出る。ぐるりとあたりを見渡すと、船の右舷後方に1本の巨大な塔が建っているのに気づいた。

 

 

少し調べると、この尖塔はザ・シャードと呼ばれていたもののようだ。21世紀に入ってすぐの頃に建てられた塔は、高さ310m。当時ヨーロッパと呼ばれていた大陸の西側地域では、最も高い建物だったという。しかし、いま目の前に建っている塔は、せいぜい高さ100mというところだろう。

 

つまりは、ロンドンは厚さ200mの砂と埃に覆われてしまった、ということか。ひと時は世界最大の都とも言われたロンドンの街は、この塔だけを目印として残し、すべてが地下奥深くにうずもれている。

 

いや、ここだけではないだろう。300年前、地球からは海が消え、大気が消え、ありとあらゆるものがセピア色のダストの下に沈んでしまった。

 

 

次第に太陽が地平線に近づいてきた。青い空を持つ惑星であれば起こったであろう夕焼けという現象も、ここでは見られない。ありふれたG型恒星のスペクトルが、生のまま目に飛び込んでくるだけだ。

 

ふとセンサーを立ち上げると、岩陰に何か小さな反応があった。近づくと、それは旧ロンドンの街並みを封じ込めたスノードームだった。月面のアポロ着陸点に続いて2つ目だ。どんな意図があるのかしらないが、感傷的だ。手土産にもらって、この滅びの惑星を離れることにした。

 

 

デブリだらけの標準軌道に上がると、ちょうど夜の面を正面に捉える位置となった。そこに光は一つも見えない。まるで巨大なブラックホールのすぐそばを飛んでいるようだ。いや、膠着円盤からの放射があるぶん、ブラックホールのほうがまだマシだろう。

 

虚しさが募る。しばらく何もせず、周回軌道を飛んでいた。やがて、夜明けが来た。太陽の真っ白な光で、惑星表面がふたたび照らされるのを目にしながら、我々は軌道を離れた。ひび割れた大地の広がりを、これ以上見たくなかったからだ。

 

 

 

 

ノヴァ・ギャラクティク・スターヤード - ソル星系 地球

航星日誌:23308.2

モアラ・オテロを追って地球の月に到達した我々は、かつてのアポロ11号着陸地点で傭兵集団エクリプティクとの戦闘を経験した。不幸な誤解が招いた状況だ。今後の遺恨とならないことを祈る。月軌道に戻り、本来の目的地であるノヴァ・ギャラクティク・スターヤードの調査を開始する。

 

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軌道ステーションのせまっ苦しいオフィスユニットで、目の前を自動小銃の弾丸が左右に飛び交っている。これは一体何なんだ。

 

月軌道に浮かぶノヴァ・ギャラクティク・スターヤードに船を接舷し、私はモーガンと共に内部に侵入していた。ノヴァ・ギャラクティクは世界で最初の恒星間移民船を開発した企業だが、その操業は遥か昔に止まっている。多層のトラスとコンテナで出来た軌道施設の構造は現代のものと変わらないが、ドライドックに係留されているのは、大気圏内用のSSTをそのまま宇宙に持ってきたような流線形のスペースプレーンだった。世代の旧さを物語っている。

 

 

エアロックを抜け内部に入ると、死体に出迎えられた。無法者が跋扈しているとは聞いていたが、その通りのようだ。重力制御は効いている。銃を構え、そろそろと奥に進むと、内装がめちゃめちゃに荒らされたオフィス兼商談スペースのブロックに出た。そこで目に飛び込んできたのが、銃撃の嵐だった。

 

しかし状況はこれまでの遭遇戦と明らかに異なっている。飛び交う弾丸はこちらを狙っていない。誰が撃っているのかは目視できないが、弾丸は部屋の右手と左手のあいだを飛び交っている。二手に分かれて殺し合いをしているようだ。

 

物陰に屈んで少し観察をしていると、銃撃が弱くなるタイミングがあり、そのたびにドタドタと通路を行きかう気密服姿を着た兵士の姿が何度か見えた。システムが彼らに付けたタグを見ると、スペーサーとエクリプティクの2つの派閥が交戦しているようだ。事態が呑み込めてきた。スペーサーは武装浮浪民ともいえる集団、エクリプティクは傭兵組織だ。両者の立場から推測すれば、空になったこのスターヤードを占拠していたスペーサーに、何者かの目的を持ってエクリプティクが襲撃をかけている、といったところだろう。

 

何にせよ、とんだタイミングで鉄火場に飛び込んでしまった。いったん撤退して様子を見たいが、中にいるはずのモアラ・オテロの状況も気になる。彼に死なれては困るのだ。このまま少し待てば互いに頭数を削りあってくれるか……と、その時、通りかかったエクリプティクがこちらを振り返った!

 

気づかれたか? 奴らとは月面で遭遇戦をこなしたばかりだ。データが回っているとマズい。敵認定される……と思った瞬間、後ろから弾丸が飛んできた。振り返るとモーガンがすっくと立って、銃を構えていた。この馬鹿! こっちから仕掛けたら何にもならないじゃないか!

 

今まで気づいていなかったが、モーガンは気密服すらつけていなかった。特攻隊じゃないんだから。しかしモーガンは反撃も気にせずそのままガスガスと拳銃を打ち続ける。正面のエクリプティクが倒れこむと同時に、センサーは周囲を回遊していた敵兵がいっせいにこちらに集まりだしたのを検知した。毎回あれほどやめてくれと思っていたのに……。こうなっては、やるしかないじゃないか!

 

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もはや相手がエクリプティクなのかスペーサーなのかもわからない。左右、そして後ろからも襲ってくる敵を一体一体片づけて、ようやく周囲が静かになった。周囲を警戒しつつ、医療キットを使ってダメージを回復させる。惑星上の拠点での戦闘と違って、こういう狭いところでマシンガンはやはりコントロールが難しい。すぐに拳銃かハンドアックス(レスキュー用のものを使っている)を装備できるようにしておかなければ。

 

ふと周りを見ると、モーガンはオフィスの隣の食堂にどっかりと腰を降ろし、テーブルにあったサンドウィッチを食べていた。どういう神経してるんだこいつ。エサを探しに来た熊か。

 

 

いったんスターヤードの奥深くに侵入し、研究室、医療室、開発チャンバーとモアラを探してく。部屋を移るたびにスペーサーやエクリプティクに襲われ、ステーションの空気にミスト化した血が混じっていったが、肝心のモアラの姿はどこにもなかった。そして、ようやくある部屋のデスクに置かれたスレートに気づいた。

 

スレートに残された音声ログを開くと、モアラの声だった。奴はスペーサーに隠れてこのステーション内に入り込み、必要な物資を盗むとその足で海王星に向かったらしい。海王星⁉ ここから30天文単位も離れてるじゃないか!

 

スレートを床にたたきつけたくなった。なんたる徒労感。無駄な殺しに関与してしまった罪悪感。少し心が折れそうだが、仕方ない。せめて、この太陽系惑星めぐりの旅が自分の成長につながってくれれば……。そう思ってモーガンの方を振り向くと、彼女はいつもの仏頂面でこう言うのだった。「よし、次は海王星ね」わかってるよンなこたぁ!

 

 

月(ルナ) - ソル星系 地球

航星日誌:23308.1

金星軌道にモアラの船はなかった。彼の残したメッセージを追って、地球の月にある廃スターヤードに向かう。

 

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再び惑星間軌道を遷移する。現在の惑星配置では、金星から見ると地球は太陽の裏側、合に近い位置にある。重力傾斜を見ると、木星経由で行くのが順当だろう。もちろん今どき重力スイングバイをして燃料を節約するようなコースを取る必要はないのだが、気分だ気分。

 

 

100にも及ぶ木星の衛星ひとつひとつを観測する時間はなかろうが、メジャーな衛星のひとつふたつ観測しても、モアラ・オテロは待ってくれよう。木星の昼側=太陽側に出ているカリストとイオに接近し、軌道上から資源データを取ることにした。

 

イオは周囲に密な岩石が漂っているだけの面白みのない衛星だったが、カリストでは軌道上で活動している自由恒星民の船に出会った。珍しく向こうからコンタクトされ、茶飲み話に付き合ったような感じだが、どうもアルタイル方面が騒がしいらしい。今回の件が落ち着いたら行ってみよう。しかしなぜ私をチャーリー3と呼んだのかは聞きそびれてしまった。そんなコールサインに聞き覚えはないのだが。

 

 

観測データによると、カリストには鉄とヘリウム3が豊富に埋蔵されているようだ。資源が必要となったら、掘削に来よう。

 

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そして、我々は月軌道に到達した。ザ・ムーン。ワンアンドオンリーの地球の月だ。ノヴァギャラクティク社のスターヤードも浮かんでいる。

 

 

正面に見える月の地形を確認する。ほとんど海(黒い部分)が見えないということは、我々は地球から見て月の裏側、ファーサイド上空を飛んでいるということだろう。右上と左上にそれぞれ特徴的な地形が見える。調べるとすぐにわかった。左上の中に島がある湖のような地形はツィオルコフスキー・クレーター、そして右側の比較的大きく暗い領域は、モスクワの海だ。

 

この位置関係だと、月の赤道はまっすぐ縦に走っていることになる。月の北極は右側、南極は左側だ。その地形は400年前に当時の連合国家が観測機を打ち上げ、写真を撮ったときと変わらない。短期間で人が住めなくなってしまった地球とは裏腹だ。

 

モーガンがつぶやく。地球の大気が宇宙に流出し始めてから、滅亡までのタイムリミットはわずか50年だった。このわずかな期間で人類を管理して宇宙に脱出させるために、コロニー連合が樹立されたのだ、と。UC政府の抑圧的な官僚機構がいまも続くのには、そうならざるを得ない理由があったのだ……。

 

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少し気分を変えよう。スターヤードでオテロに会う前に、もう少しだけ寄り道して月面に降りてみることにした。目的地はコンステレーションのロッジに置かれていた本で読んだ、アポロ計画の月着陸跡地だ。

 

マップ上では単にアポロ着陸点となっているが、場所は静かの海の南西の浅瀬。人類初の地球外天体着陸を果たしたアポロ11号の、その場所だ。

 

 

着陸地点は月の明暗境界線(ターミネーター)の夜側だったため、遺物は暗がりの中にぼんやりと立っていた。日が当たっていれば、きっとオレンジの耐熱膜がキラキラと輝いていたに違いない。アポロ11号の月着陸船イーグルは、帰還時に余計な荷重となる脚部分を切り離し、上段部分だけが軌道へと戻っていった。20世紀中葉、まだ非効率な化学燃料モーターしかなく、ギリギリ切り詰めた探査しかできなかった時代だ。

 

興味本位で着陸脚の上に登ってみると、そこに小さな月着陸船のスノードームが置かれていた。誰かのいたずらだろうか? 記念に持ち帰ることにした。

 

 

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驚いたことにこのアポロ11号の遺構のすぐ近くにも、巨大な工場が見える。月の土産がスノードームひとつというのも寂しい。実際何があるのか見物してこようと、300メートルほど離れた最寄りの一つに行ってみた。夜側にいるから放射線の心配もさほどないだろう。

 

 

システムによると、施設は打ち捨てられたエクリプティクの駐屯地だという。エクリプティクというのは悪評高い傭兵集団だと、どこかで聞いていた。しかし遺棄されているなら中を見ても構うまい。そう思って近づくと、真空露爆の倉庫からゴテゴテした宇宙服を付けた兵士が出てきた。なーんだ遺棄されてないじゃん。

 

エクリプティクは、近づいたら殺す的なことを言ってくる。その言葉、ついこないだ火星のロボットからも聞いたぞ? この世界では人もロボットもパーソナルスペースを大事にしすぎる。へいへいと後ろに下がって立ち去ろうとしたら、センサーに鉱物の反応が出た。基地施設の脇に、鉄鉱石が露出していたのだ。ま、石ころひとつとっても怒られまい。そうおもってレーザーカッターを取り出し、鉱石を掘り出した直後だった。施設の中のエクリプティクが何やら声を発し、同時に自動小銃の安全装置を外す音が聞こえた。

 

あー、ダメだったか。施設に近すぎたから? レーザーを発振したから? どっちにしろこれは……と、思うと始まった。マシンガンの掃射だ。これは、やるしかないのか。レーダーマップに次々と赤い光点が増えていく。みんな攻撃意図を持ったエクリプティクだ。なるほど喧嘩っぱやい。まったく無警告だったスペーサーよりは多少マシ、という程度か。

 

例によってモーガンはこちらの話を聞くまでもなく発砲を始めていた。この撃たれたら即撃ち返すスタイル、やめた方がいいと思うんだけどなあ。そう思いつつも、こちらもマシンガンの発砲を始める。今回は場所も広く余裕をもって動けそうだったので、前回の戦闘で手に入れたロングバレルの銃に持ち替え、物陰からきちんと当てるように心がけた。こうやって人殺しのテクニックも上がっていくわけだ。

 

 

襲い掛かる敵を排除しながら、基地内を探索していく。倉庫では禁制品という、何がどういう理由で禁止されてるのかわからないがとにかくそういう品物を見つけてしまった。

 

ほどなくして、3階建ての施設は制圧でき、まわりはまた静寂に包まれた。足元にはまた死体の山だ。ナムアミダブツ。せっかく崇高な宇宙開発発祥の地に来たというのに、なんとも血なまぐさい状況になってしまった。流れ弾、イーグルに当たってなけりゃいいけどなあ。

 

とんだ寄り道をしてしまった。月軌道に戻ろう。さあ、いよいよモアラ・オテロと面会だ。

 



 

 

 

金星停泊軌道 - ソル星系 金星

航星日誌 23308.1

火星から金星に到達。アーティファクトと思しき物体を発見したというUCヴァンガードの隊員は、金星のパトロール任務に就いているという。果たしてシドニアのバーテンダーの情報は正確だったのか、結果はすぐに分かるだろう。

 

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金星の停泊軌道*1に到達すると、視界に無数の岩石が飛び込んできた。金星に環があるとは聞いていない! 相対速度を落とさなければ危険だ。反動推進エンジンの推力を反転させ、加速を止める。その間にもセンサーがいくつかのアノマリーを検知してくる。まず正面に目視でも確認できる、リング状の人工衛星。おそらくUCの軌道灯台(ビーコン)か恒星間通信リレーだろう。そして、それに群がるように赤い三角形がいくつか。間髪入れず、モーガンが声をあげた。ヴァルーン狂信者の船団だ!

 

 

ヴァルーンの家のことなら、アルファ・ケンタウリの歴史博物館で見た。100年ほど前に興った、グレート・サーペントなる神だか獣だかを崇める信仰集団だ。ほどなく聖戦と称した攻撃を植民世界にしかけるも、指導者の代替わりにより軟化。しかし今でも、一部狂信的な集団は見境なく襲い掛かってくるという。危険だ。

 

しかし問題は、センサー範囲に我々の追っているヴァンガード、モアラ・オテロの船の信号がないということだ。彼はここにいるはずだった。既に別の宙域に旅立ったのか、あるいはここで破壊されたのか……? 鍵となるのはリング状の衛星だ。その役割を想定するに、この金星宙域の通信ログを保持しているはずだ。近づいてデータリンクすれば、モアラの行方もわかるかもしれない。

 

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状況を整理しよう。アーティファクトに絡むモアラ・オテロの船の行方を知るため、我々は衛星ビーコンにランデブーする必要がある。一方で、そのすぐ近くには危険な船団が停泊している。すると選択肢は3つだ。ひとつ、狂信者の船団と戦い、追い払ってからビーコンに接触する。ふたつ、狂信者の船団に見つからないように、ビーコンに忍び寄る。みっつ、あきらめる。

 

3隻の船を相手に空間戦闘を行うのはあまりにも分が悪すぎる。なにしろ私は1度しか戦闘経験がないのだ。モーガンのアドバイスによると、船の兵装とシールドを切り、エンジンパワー最小で近づけば相手のセンサーに引っかからずに衛星に近づくことができそうだ。これはこれでリスクが高いが、最初から戦闘になるよりはマシだ。ここまで来てあきらめるのも業腹。冷静に、確実に、ステルス作戦で行こう。

 

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レーザー、質量弾、ミサイルの3兵装に回していたパワーをすべて切り、更にシールドのパワーもゼロにする。グラヴ・ドライブは最初からゼロだ。シールドゲージが赤くなり、船が無防備になったことを知らせる。更にエンジンパワーも最小値にまで落とし、ただよう岩塊の向こうに見える衛星めがけ、ゆっくりとスラスターを吹かす。

 

幸いにして軌道上の岩石群の動きはさほど大きくなく、低速であればすり抜けることはできそうだ。とはいえ船はシールドを切った状態。万が一接触した際にどの程度のダメージを受けるのか、想像もつかない。岩塊の陰を、ゆっくりと進んでいく。ヴァルーン船団の位置を示すアイコンが、前方から左舷へと流れていく。しかしこの岩塊はどこから来たのだろうか? 落ち着いて観察すると、金星軌道に環を形成するほどの量ではないようだが、それでも内惑星にこれだけの質量が飛来するというのは考えにくい。コロニーの建設資材として持ち込まれたものだろうか?

 

 

ヴァルーンの家の船団が後方に流れていったとき、彼らの通信が傍受できた。いや、通信というより一方的な布教の配信といったほうが良いだろう。中身はたわごとと考え聞き流したが、彼らはこのリング衛星を使って教えを広めようとしていたのだろうか?

 

その衛星が大きくなってきた。どこからでも視認できるよう、リングはリズミカルに光を放っている。しかも巨大だ。その輪の中を宇宙船でくぐり抜けることができるだろう。

 

船は近づく。700メートル…600メートル…500メートル! データリンク可能距離だ。ただちにビーコンを起動し、ログに接続する。あたりだ。モアラの音声通信が残されていた。周辺の全UC船籍に対するメッセージだ。緊急修理のため、地球の月にあるノヴァ・ギャラクティク社のスターヤードに向かうとのこと。やはり何か戦闘に巻き込まれたのだろうか?

 

 

ともかくターゲットの生存は確認できた。ヴァルーンに襲われ、アーティファクトとともに金星の微粒子帯になっていたなんてオチでなくてよかった。よし、そうとわかればここに用はない。残りのログをダウンロードしつつリングをゆっくりとくぐり抜けると、一気にエンジンパワーを戻し、全速でヴァルーン船団から距離を取りつつ金星軌道を離れた。

 

*1:SF用語では、宇宙船が惑星を下もしくは奥に置いてゆっくり飛んでいるあたりを標準軌道(スタンダード・オービット)とか停泊軌道(パーキング・オービット)と呼ぶ。実際の宇宙用語としてのパーキング・オービット=宇宙待機軌道とは意味合いが異なる

ダイモス - ソル星系 火星

恒星日誌 23308.0

ヴァンガードの船を見つけるため、我々は火星から金星へと進まなければならない。しかしその前に、衛星ダイモスに寄港することにした。

 

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シドニアを離陸した我々は、いったん火星の停泊軌道から衛星ダイモスの軌道に遷った。シドニアを空から牛耳るダイモス・スターヤード社の様子を見ておきたかったのだ。

 

造船施設はダイモスの地表を改造して作られているかと思っていたが、実際はダイモス近傍に浮かぶ巨大なトラス型の宇宙ステーションだった。考えてみれば、ダイモス程度の小さな天体だと重力も弱く地表は強く固まっていない。穴を掘ろうにもダストが飛び散ってしまい、文字通り形にならないのだろう。

 

 

ステーションの桟橋からベローズが伸び、船の上部ハッチと接合する。この船の上部ハッチを使うのははじめてだ。与圧されたベローズを通って中に入ると、20世紀の自動車ディーラーと航空博物館を合体させたような施設が中にあった。

 

 

実物を見てしまえば、なんということもない。ダイモス・スターヤードは意外と質素で安っぽくも見え、奴隷の搾取によって築かれた一大帝国という印象はどこにもなかった。だがそれが、逆にコロニー連合の構造的な差別を物語っているようにも思える。彼らも自分たちコロニー連合の軍事力、政治体制、しいては社会を支えるために、仕事をしているだけだ。ピラミッドの頂点を支えるためではなく、全体を支えるために、コロニー連合は全体の一部であるシドニアやウェルの人々に貧困を押し付けている。

 

スターヤードを取り仕切っているのはニカウ・ヘンダーソンという軍服を着たスキンヘッドの男だった。私を民間人とみるや即座に見下すような、つまらん男だ。しかし彼の部下のサンドラ・フラートンという女性は連合軍人にしては気さくで、いろいろと話ができそうだ。彼女はニューアトランティスのジェイクズ・バーのスタウトを飲みたがっていた。機会があれば持ってきてやろう。

 

頼まれ仕事で思い出した。シドニアの鉱山に降りたとき、現場監督のトレバー・ペティヤールに、秘密の仕事を紹介してやるから、小手調べにダイモス社のブレナンとかいう役員に取り入ってこいと言われていたのだ。まあ話の流れで仕事が欲しいみたいなことを口走ってしまっただけなのだが、スパイごっこも一興だ。せっかくなのでここの端末から役員秘書の仕事にアプライしておいた。人格テストみたいなことをやらされ不快だったが、まあお遊びお遊び。

 

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さて、ここで航宙艦を買えるようなカネは持っていないので、長居する理由もない。改めて金星行きだ。

 

 

ソル星系の全体図を見てみよう。各天体のスケールは誇張してあるが、各天体の位置関係は正確なはずだ。現在、火星と金星は比較的近い位置にある。特に寄り道もせず、重力井戸を強引に降りていけば、金星に到達するだろう。

 

もちろん、FTLエンジンが実用化し、通常エンジンも旧世紀とは比べ物にならない性能が出るいま、別に土星経由だろうが天王星経由だろうが、惑星間の移動はほぼ一瞬で終わってしまう。だが気分の問題だ。古き良き時代のように、天体間移動の情緒を楽しみたいじゃないか(そんなものがあったかどうかは知らないが)。

 

さあ、一路金星へ。