Starfield 航星日誌

スターフィールドのプレイ日誌です。ネタばれあり。あしからず。

シドニア - ソル星系 火星 Part. 1

航星日誌 23307.3

私はひとり、コロニー連合の秘密警察に捕えられている。既にアルファ・ケンタウリを離れ、ソル第4惑星、火星の尋問施設に身柄を移された。そこで彼らに、ある取引を持ち掛けられた。

 

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問題はニューアトランティスの貧困地区にある医療ベイの中で起こった。私はヴァンガードの登録センターから出たあと立ち寄った報道機関SSNNでスラム街の代理取材を頼まれ、3人の取材対象のうちのひとり、看護師のオシェーに会っていた。

 

ウェルと呼ばれる貧困地区は、都市の外縁ではなく、その地下にある。文字通りのアンダーグラウンド・シティだ。おそらく惑星ジェミソンの入植が始まった当初、人々は空気や水などのリソースを最小限で済ませられるよう、地表でなく地下に住居を作ったのではないか。その後テラフォーミングが進み、充分かつ快適な空気、水、土壌が整うと、人々は旧街区に蓋をするように、いまのニューアトランティスを作った。地下施設はそのまま空気や水を作る都市インフラとして残り、同時に市民権を得られない人々の吹き溜りとなった……さしずめそんなところだろう。惑星表面の土地はすでに市民権所有者に割譲されているのか、あるいは都市の外ではまだテラフォームが完全ではないのか、ともかく持たざる人々は、この地下街に押し込められている。

 

地下街に呼吸可能な空気と水はあっても、恒星光は届かない。また、地表の都市環境を維持するための様々な機械が動いている中で生活することになる。航宙船の中で生活するのとさして変わらない、劣悪な環境だ。ここで医療を行うこと自体、高潔な行為と言える。インタビューを終え、オシェーからはウェルの子供に広がる感染症の治療に関わる調査を頼まれてしまった。さすがにこれを断るほど、人間は小さくない。

 

彼女から頼まれたミッションに頭を巡らせながら、診療所の中を見回していると、ふとテーブルの上に置かれた医療キットが目に入った。航宙船の中や研究施設の壁など、どこにでもある標準的なものだ。何の気なしに手を伸ばし、中の薬をいただいた次の瞬間だった。後ろからドカドカと足音が聞こえ、振り向くとUCSECと書かれた暴動鎮圧スーツにアサルトライフルを装備した男たちに包囲されていた。コロニー連合警備保安局(United Colonies Security and Safety division)、通称UC警備隊だ。

 

 

ミランダ警告があったかすら覚えていない。私は即逮捕され、そして気が付くと火星の監獄で、尋問室の椅子に括り付けられていた。

 

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なんなんだこれは! 私は何も悪いことはしていない! いや、確かにテクニカルには窃盗を働いた。それは認めよう。しかし以前海賊と戦闘になったとき回復パックが大量に必要となったので、以来医療キットを目にしたら手を伸ばすのが習慣になっていたからだ。パックを取得するとき、「取る」ではなく「盗む」と表示されたのも覚えているが、一瞬のことだ。勝手に手が動いただけで、窃盗の意図は持っていない!

 

だいたい私はドクターの頼み事を聞いてやったのだ。対価として薬品のひとつぐらい貰ってもいいはずだ。それにウェルを見ればわかる通り、UCは市民権を与えていない人間には福祉も提供していない。自助努力で生き抜くことを推奨しているのなら、これくらいの窃盗だってむしろ推奨されるべきだ。そもそもを言えば、地球時代から物語のヒーローが民家を物色してモノを盗るのは当たり前の行為として容認されてきた。私はアーティファクトに選ばれた存在なのだから、その資格はあるはずだ。それにしてもこんなちんけな窃盗で容疑者をほかの恒星系に移送するなんて、コスト意識はどうなっているのだ。それこそ納税者への背信行為ではないか。私以外の全ての軽犯罪者も逮捕して移送しているのだろうな? 選択的な逮捕や収監は公正性を著しく欠く不当行為だ!

 

無罪の理由を42通りほど考えていると、観察窓の向こうに、看守たちのボスと思しきスキンヘッドの男が現れた。ここはどうやらUCSECの拘置所ではないらしい。コロニー連合海軍隷下の特務組織、星系防衛局(UC System Defense, 略称SysDef)の秘密基地のようだ。その男は司令官のイカンデと名乗った。屈強な体格に、にこやかに作り上げた表情。警戒心が増す。

 

 

イカンデは単刀直入と言いつつダラダラと弁を垂れたが、要はこういうことだった。「ここで収監され罰金を払うか、それとも私の指揮下に入り、紅の艦隊の潜入捜査を行うか」

 

なるほど、防衛システムとも言われるSysDefは、UCの植民世界を襲うテロリスト、紅の艦隊からUC市民を守るのが仕事だ。彼らが秘密裏に紅の艦隊壊滅作戦を遂行するにあたり、どうやら私は、かなり前からスパイ候補としてマークされていたらしい。どの組織にも明確に属しておらず、紅の艦隊との交戦・交渉履歴があったことから、組織への潜入にぴったりだと判断されたのだ。

 

それで奴らはUCSECと結託し、旧世紀のジェイウォーク(横断歩道以外の場所の道路横断罪での逮捕)や転び公妨(警官への接触を公務執行妨害として逮捕)さながらのやり口で逮捕し、脅迫して手ごまに仕立てようとしたわけだ。イカンデはスパイのハンドラーだ。

 

ふたを開けてみれば、これは薬品の窃盗とはレベルの違う、高次の倫理問題だ。各地で略奪や殺人を繰り返す邪悪な紅の艦隊。奴らからUC市民を護るため、この組織に従うのか、それとも……。

 

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私は断った。収監と罰金のほうがまだマシだ。

 

もちろん、こんな非人道的なやり方でまったく無辜の人間を拉致監禁し、それでいながら正義の名をかたって味方に引き入れようというイカンデの魂胆が気に食わないというのもある。だが、もっと根本的なところで、あの人たちとはこれ以上戦いたくないな、と思ってしまったのだ。

 

確かに、奴らは採掘チームに襲い掛かってきた。そして、私も身を守るために彼らを何名も殺した。しかしその後の交渉で、彼らにも一定のルール、そして社会……おそらくは仲間、家族といったものがあることが見えてしまった。

 

いちどそういう交流を持ってしまった相手を、皆殺しにするためにスパイをするなんて、単純にはできないぞ、と思ったのだ。

 

わかっている。ヒューマニズムに基づく判断は、いつだって独善的で、刹那的だ。いまSysDefに参画しないことで、今後も紅の艦隊に殺されたり、家族を失う被害者が出続けることになるのかもしれない。しかし私は、紅の艦隊の連中を、同じ人間だと認めてしまったのだ。踏ん切りはつかない。

 

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イカンデは軽蔑の目線を私にくれた。その目から、私は、この収容所で生涯を暮らすことになるだろうと覚悟した。しかし、そこにモーガン(すっかり忘れていた!)が現れ、釈放のためのカネを支払ったと伝えてきた。

 

 

ふう、どうやら私は再び自由の身らしい。回復パックひとつで人生を棒に振るところだった。釈放金は例のCEOのジジイのカネだろうか? 突然増えた寄付金の理由について、取締役会でネチネチ問われるヤツの顔を思い浮かべると、少し溜飲が下がった。

 

しかしSysDefは、どうやら私を敵認定したらしい。勝手に巻き込んでおきながらはた迷惑な話だ。もう知ったことではない。とにかく外に出よう。モーガンに連れられ、与圧服を着て外に出ると、そこは火星、シドニアの街だった。

 

 

なんと、そもそも旅の目的地であったシドニアに、強制的に来てしまったわけだ。赤い土の地表にでると、宇宙行には自分の船もあった。モーガンが乗ってきてくれたのだろう。何はともあれ、これで冒険が続けられる!