Starfield 航星日誌

スターフィールドのプレイ日誌です。ネタばれあり。あしからず。

旧ロンドン - ソル星系 地球

航星日誌:23308.3

旧い伝説に、サマルトリアの王子という一連の挿話がある。その王子を探して街や洞窟を訪れるのだが、そのたび、王子は一足違いで旅立ったあと、という内容だ。今回のヴァンガード探しは、まさにサマルトリアの王子の様相を見せている。

 

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青黒い空を降り、カフェラテ色の大地が近づいてくる。しかしそこに水分はない。乾ききってひび割れた地面が、延々と広がっているだけだった。着陸態勢に入った船が4本の主推進器をすべて地表方向に向ける。その噴射を浴びて、もうもうと埃が立ち上った。

 

我々は、地球に降り立った。

 

 

システムのナビゲーションによれば、ここは旧ロンドンの中心地だ。が、視界にひろがるのは岩と砂ばかりで、人工物は一つも見えない。昼の領域にいるはずだが、天頂はほぼ宇宙の色で、星が見える。地平線は白く霞んで見えるが、これは大気の厚さによるものではなく、舞い上がった地表の埃によるものだろう。

 

月軌道ステーションを出たとき、モーガンはヴァンガード、モアラ・オテロを追うため、海王星に急ぐよう言ってきた。しかし私はその気になれなかった。奴を追う過程で、金星では狂信者相手に命がけの操船を強いられ、月軌道ステーションでは無駄な人殺しを殺してしまった。海王星にすぐに向かったところで、また入れ違いになるかもしれないし、敵に襲われるだけかもしれない。

 

ばかばかしくなって、こうやってまた、寄り道をしてしまったわけだ。しかし、この光景は……。旅の疲れを癒すには、ほど遠かった。

 

気密服を着て、船の外に出る。ぐるりとあたりを見渡すと、船の右舷後方に1本の巨大な塔が建っているのに気づいた。

 

 

少し調べると、この尖塔はザ・シャードと呼ばれていたもののようだ。21世紀に入ってすぐの頃に建てられた塔は、高さ310m。当時ヨーロッパと呼ばれていた大陸の西側地域では、最も高い建物だったという。しかし、いま目の前に建っている塔は、せいぜい高さ100mというところだろう。

 

つまりは、ロンドンは厚さ200mの砂と埃に覆われてしまった、ということか。ひと時は世界最大の都とも言われたロンドンの街は、この塔だけを目印として残し、すべてが地下奥深くにうずもれている。

 

いや、ここだけではないだろう。300年前、地球からは海が消え、大気が消え、ありとあらゆるものがセピア色のダストの下に沈んでしまった。

 

 

次第に太陽が地平線に近づいてきた。青い空を持つ惑星であれば起こったであろう夕焼けという現象も、ここでは見られない。ありふれたG型恒星のスペクトルが、生のまま目に飛び込んでくるだけだ。

 

ふとセンサーを立ち上げると、岩陰に何か小さな反応があった。近づくと、それは旧ロンドンの街並みを封じ込めたスノードームだった。月面のアポロ着陸点に続いて2つ目だ。どんな意図があるのかしらないが、感傷的だ。手土産にもらって、この滅びの惑星を離れることにした。

 

 

デブリだらけの標準軌道に上がると、ちょうど夜の面を正面に捉える位置となった。そこに光は一つも見えない。まるで巨大なブラックホールのすぐそばを飛んでいるようだ。いや、膠着円盤からの放射があるぶん、ブラックホールのほうがまだマシだろう。

 

虚しさが募る。しばらく何もせず、周回軌道を飛んでいた。やがて、夜明けが来た。太陽の真っ白な光で、惑星表面がふたたび照らされるのを目にしながら、我々は軌道を離れた。ひび割れた大地の広がりを、これ以上見たくなかったからだ。